2013-01-26
武田百合子著「富士日記」
1980年の中頃、ボクたち夫婦が河口湖近くの富士山麓に土地を買った頃、付近での別荘生活を綴った武田百合子著「富士日記」を手にした。普段着のまま綴ったこの別荘生活記を読みつつ、来たるべき山暮らしを夢を見ていた。この本の著者は有名な作家、武田泰淳の奥様で、この「富士日記」は泰淳の没後、それまでの夫との思い出日記をまとめ出版した、彼女の処女作という。
あれから30年ほども経った、あっという間だ。昨日、実家の近くの図書館でたまたまこの本に再会した。この本って、こんなに文字が小さかったのだろうか。上下二巻に分かれたこの分厚い本を読み進めるのは大変だ。
図書館からの帰宅後、ネットで武田百合子と入れて検索していて、その後もっと大きな文字での改訂版が出ているのを知る。この改訂版の方は上中下と三巻に分かれ、各巻のページ数も400ページあまりと増している。それなら、大きな文字の方で、読んでみたいと思う。
田舎の実家には独り暮らしの95才の母がいる。昨年10月10日に母が倒れて以来約3ヶ月、ずっと実家に帰っての生活が続いている(この間、2週間ほど帰京したが)。母の面倒を見ながらの生活なので、大好きな大工仕事もできないけれど、時間がたっぷりあるので図書館通いと近くの山登りができる。また家内が帰京して一人の時には、ぼくも今までやったことのない料理をやり始めた。これが意外と楽しいのだ。
退院後母はぐんぐん元気になり、現在は医者も驚くほどだ。しかしもう歳なので、一人で生活させるのにはちょっと心配。物忘れがひどく、薬(降血圧剤)を飲むのを忘れてしまうのだ。倒れたのも、ボクたちが東京に帰ったあと、一人になってからというもの1ヶ月丸々飲み忘れていて、それが主な原因。薬を忘れていたこと自体、本人には今でも認めない。「飲んでいたんだけど、…」という。毎朝、「薬もう飲んだ?」と尋ねても、「すでに飲んだ」と言う。が、実際に確認すると飲んではいないのだ。薬には日付が印刷してくれているのでわかる。
このように、ついさっきのことでさえ、忘れてしまう頻度が増えた。これは自分も同様だけれど……。本人の名誉のためいうが、かと言って別にぼけてるわけではない。昔のことなどはよく覚えていて、その点はボクもとても敵わない。耳はずいぶん遠くなったけれど。
どうして薬(血圧剤)だけはこんなに忘れやすいのだろうか。老人担当の行きつけの医者も「薬は忘れやすいんだよね」と言うから、誰でも忘れやすいものらしい。医者自身もそれで、朝起きたらすぐ飲むくせをつけているらしく、そうした方がいいと言う。降血圧剤は、なにも処方箋通りに食後でなくてもいいのだそうだ。
毎日三度の食事の準備や片付けも親孝行と思ってやっているが、時々せっかくの楽しい女の仕事を取り上げているのでは?と思うこともある。疲れない程度に食事の準備を頼む方が、頭のリハビリや運動不足の解消には、いいのかもしれない。でも、ちょっとの仕事やお出掛けでも、ぐっと疲れるようだ。
今は寒い時期、血圧が上がりやすい季節という。前回は大事に至らなかった脳溢血が、再度起こったら大変、出来るだけじっとしていて欲しいのだが。
ところで三度の食事の件だが、今はCOOKPAD など、便利な料理サイトがあるので、料理本はなくても作れる。
東京の家や富士山のドームには、男の料理的な本、短時間でできる簡単料理本など、たくさん揃えてはいるが、今までそれらを参考にして作った試しがない。作る時はそんな本をもっていることなどすっかり忘れて、その場しのぎで作る。今回のように何ヶ月も間、三度三度の食事となると、そうはいかなくなった。
でも何とかなっている。「料理って材料さえあれば、初めての男でもなんとかなるもんだな、よしよし」と早くも勘違いし始めている。自分だけじゃなく他人のための料理というのもいいのかもしれない。
もっとも男のやることだから、野菜を切るにしても肉を焼くにしても、何もかも大雑把になることは否めない。大雑把になるのは、荒々しい男の料理だとか粋がってるわけではなく、単に面倒だからだが、幸い文句も言わず食べてくれている。自分でも味は悪くないと思うのだ。
もっとも子供や孫から料理では一目置かれている家内からは、苦笑されたり、文句(意見?)を言われたりしている。こんな場合、うるさい、それなら自分でやれ、なんて険悪な感情になっている自分がある。勝手なものだ。こと料理には文句を言ってはならない、と自戒。
今日は土曜日、うっかり朝寝坊。起きたら母が朝食を用意していた。久しぶりだろうし、それも楽しみだろうな。
何から何までやってあげるのが親孝行でないとも思いだした。昔の女(ひと)だから、男が台所に立つのは嬉しいものではないだろう。かえって気苦労させている気がする。
だから2,3日おきに、片道2.5km、歩いて30分ほどのところにある図書館にいって、夕方まで長時間過ごしたり、また眉山に登ってくるとか言って出掛けて、自由にしてあげる。その間に、自分のしたいことをやってるみたいだし、部屋がすっかり片付いていたりする。一人にさせてあげるのも親孝行かも。
今日はこの冬一番の寒さと天気予報では言っていた。マイナス1度からプラス5度という。確かに寒い。
暖かくしてこの「富士日記」でも読みながら、筆者の料理メモでも参考にした料理を今夜は作ってみよう、と思う。かつての富士山での武田百合子と泰淳との別荘生活に思いを馳せながら……。
「さようなら」の前に Posted from iPad
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